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「いつかはゆかし」の次

ゆかし

平成25年10月3日 証券取引等監視委員会(監視委)は、アブラハム・プライベートバンク株式会社(アブラハム)に対する検査結果に基づいて、法令違反の事実が認められたので、行政処分を行うよう勧告しました(アブラハム・プライベートバンク株式会社に対する検査結果に基づく勧告について)。

アブラハムは、海外積み立て投資サービス「いつかはゆかし」(=海外変額生命保険商品)を提供しており、2012年10月のサービス開始以降、大量のテレビ・コマーシャルやウェブ広告等により顧客獲得を行っていました。

今回、アブラハムは、金融商品販売業(第一種金融商品取引業もしくは第二種金融商品取引業)の登録をせずに海外ファンドの金融商品を販売(注1)する「無登録販売」を行ったとして、監視委により、金融商品取引法違反だと認定されています(注2)

アブラハムの業務については、その他、誇大広告(実際に投資助言していない金融商品の平均利回りを他の商品と比較し、自社サービスの優位性を示す)、個別顧客への利益提供(1人の顧客に助言料約940万円を免除)についても、金融商品取引法違反が認定されています。

ただし、このようなアブラハムの無登録販売の可能性については、「いつかはゆかし」サービスの開始時から、各方面で指摘されていたことであり、監視委の検査結果に、正直、驚きはありません。

 

さて、ここからが本題です。あまり報道されていませんが、アブラハムに対する勧告が出た同日に、他の2投資助言業者に対して、ほぼ同様の海外ファンドの無登録販売について勧告が出ています。

K2 Investment株式会社に対する検査結果に基づく勧告について

IFA JAPAN株式会社に対する検査結果に基づく勧告について

もともと、投資助言業者は、助言業のみでビジネスを行うことは極めて難しく、結局のところ、金融商品を投資家に販売することで収益を上げているケース(キックバック)が多いのが現状です(金融商品販売業や運用業と重複して登録される場合は除く)。その中でも特に、高額の販売手数料を受け取ることができる海外変額生命保険商品は、投資助言業者にとって魅力的な金融商品でした。アブラハムも、いつかはゆかしサービスを開始する以前から同商品などを販売して、キックバックを受け取っていたようで、いつかはゆかしサービスにより、さらなる収益拡大を目指したようです。

この点については、規制当局も、現状の問題点を把握しており、その是正に向けて強い決意を持っています。

現在、監視委は、虚偽の運用実態を示して顧客を勧誘していた米MRIインターナショナルなどの不正が相次いでいることを踏まえ、ファンドの販売などを手がける第二種金融商品取引業者の集中検査に乗り出しています。同検査が一段落したのちは、早ければ2014年年明けから、投資助言業者の集中検査に乗り出すと思われます。目的は、無登録販売の一掃です。投資助言業者やそもそも金融商品取引業者ではない者が検査・調査の対象になります。

そのために、監視委は、既に、海外の運用会社等から必要な情報を入手している、もしくは近々入手するものと思われます。

もし、このコラムを読まれた投資家で、すでに同様の海外ファンドの積み立て投資サービスを開始している方がいるのであれば、早急に専門家に相談することを強くお勧めします。

 

谷口郁夫

 

注1)金融商品取引法に「販売」という概念はなく、正確には、「募集の取扱い又は私募の取扱い」ですが、本コラムでは便宜上、「販売」として説明します。

注2)アブラハムは、金融商品取引法上、投資助言業者です。投資助言業者は、投資家からアドバイス料をもらい、最適な金融商品を紹介することは可能ですが、紹介の結果、投資家が金融商品を購入したとしても、金融商品の運用会社から販売手数料を受け取ることは出来ません。しかしながら、アブラハムは実際には販売手数料を受け取っていた一方で、顧客である投資家に対しては、その事実を明確に否定していました。
金融商品取引法下の各種「金融商品取引業」の概要は以下を参照。

業種 主な業務内容

第一種金融商品取引業

 ⇒ 証券会社など

・有価証券(みなし有価証券除く)の売買等
・店頭デリバティブ取引等
・引受業務
・私設取引システムの運営
・有価証券等管理業務

第二種金融商品取引業

 ⇒ 金融先物取引業者
     自己募集のファンドなど

・集団投資スキーム持分等の自己募集
・みなし有価証券の売買等
・市場デリバティブ取引等(有価証券関連以外)

投資助言・代理業

 ⇒ 投資顧問業(助言)など

・投資顧問契約に基づく助言
・投資顧問契約・投資一任契約の締結の代理・媒介

投資運用業

 ⇒ 投資信託委託業
     投資顧問業(一任)など

・投資一任契約等に基づく運用
・投資信託等の運用
・集団投資スキーム等の運用

 出所:大和総研制度調査部作成