- MRI INTERNATIONAL, INC. (以下「MRI社」)は、MARS(Medical Account Receivables: 米国医療機関の診療報酬請求債権)を運用対象とするファンドを米国(ネヴァダ州)で組成し、日本の投資家に対して販売。(日本以外は販売していないとしている)
- 日本国内での販売は1998年(平成10年)から開始
- 平成19年9月の金融商品取引法施行とともに、MRI社が日本で行ってきたファンド事業は第二種金融商品取引業に該当することとなったことから、平成20年6月に金融商品取引業登録
- 米国においてはMARSへの投資はよく知られており、病院に対してファクタリングのサービスを提供する会社(MARS回収会社)は多数存在する。米国における医療産業は巨大で、診療報酬のほとんどは公的な、もしくは格付けの高い民間の保険会社により支払われるため、ファクタリング・サービスは魅力的で、大きな事業となっている。
- MARS回収会社により買い取られた債権は、証券会社等によりMARSを担保とした証券・債権として組成され、機関投資家に販売される。実際に、米国機関投資家は、運用商品の一つとして組成された証券・債権を保有している。
- MRI社は、投資家への説明資料の中で、自社のことをMARS回収専門会社とし、その強みは「卓越したMARS回収力」であるとしている。仮にMRI社のMARS回収能力が説明資料通りであるとすれば、MRI社が回収するMARS債権は、より価値が高いものとなり、米国の機関投資家へ十分販売可能であったと想定され(または、実際にMRI社が直接販売せずとも、証券会社を介することにより販売可能)、日本の個人投資家へ販売する必要性は乏しかったと考えられる。
- MRI社の投資商品の特徴について、MRI社のMRIシリーズ・セレクトA オプションAを例にとり説明する。オプションBについても基本的な特徴は同じである。
(ア) 金利及び為替
円建てコース(元本・利息を円で払い戻し)
・投資金額 150万円、年利6.0%、投資期間2~5年
・投資金額 750万円、年利7.0%、投資期間2~5年
・投資金額1,500万円、年利8.0%、投資期間2~5年
ドル建てコース(元本・利息をドルで払い戻し)
・投資金額 1万ドル、年利6.5%、投資期間2~5年
・投資金額 5万ドル、年利7.5%、投資期間2~5年
・投資金額10万ドル、年利8.5%、投資期間2~5年
MRI社投資商品のオプションAは、1年毎に利息が払い戻され、満期時に元本が払い戻される。途中解約することはできない。
- MRI社の投資商品は、投資金額により年利が異なる。より大きな投資金額に対しては、年利も高くなる。このような投資収益の差別化は通常のファンド商品には見られない。ファンドのパフォーマンスは個々の投資家の投資金額単位で変わるものではなく、したがって投資金額の大小で差別的に扱うことに対する合理的な理由はない。MRI社は、より多額の資金調達を効果的に行うため、大きな投資金額に、より高い年利を支払ったものと考えられる。また、MRI社資料によると、1998年から2005年の償還率は5%であり、再契約率は95%に上るとされている。再契約の際には、より高い利率を求めて、より多額の投資を行った投資家も多くいると考えられる。
- MRI社資料では、為替差損益はMRI社負担と明記されている。一般的に、日本の個人投資家は、為替リスクを取ることに消極的であると考えられることから、円建てコースの選択者が大多数であったと考えられる。この場合、投資対象のMARS債権はドル建てであることから、MRI社が為替リスクを負わないようにするためには為替予約等のデリバティブによりヘッジする必要がある。しかしながら、円建て投資とドル建て投資の年利差が0.5%と小さいことから、為替予約等のデリバティブで為替差損益をヘッジするには、採算的に合わなかったと考えられる(ヘッジ・コストは日米金利差に基づき計算される)。為替リスクをヘッジするとコスト的に見合わないことから、MRI社は為替リスクをヘッジすることはなかったと考えられる。その結果、円高ドル安が進んだ場合に、MRI社の経営状況が悪化する構造にあったと想定される。実際、ドル円相場は08年のリーマン・ショック前に1ドル=100円を超えていたが、その後急速に円高が進み11年には1ドル=70円台後半になったが、同時期にMRI社の資金繰り状況が急速に悪化したことは容易に想像できる。
(イ) 投資の安全性
- MRI社は、エスクロー預り金口座の使用等により、投資スキームが安全であることを宣伝している。そもそも米国でMARS債権を担保にした金融商品が機関投資家に販売されているのは、機関投資家は、受託者として投資スキームの安全性を確認する義務があり、かつ確認できる能力があることが前提とされているからである。一方で、個人投資家は、機関投資家のような能力はない。ましてや、日本の個人投資家が、米国における投資スキームの安全性を検証する手段は皆無であるといえる。MRI社が日本の個人投資家を販売対象とした理由と考えられる。
- MRI社の投資スキームにおいて、MRI社の日本支店は、資金の流れに全く関与していない。投資家はMRI本店の米国の銀行口座に資金を直接入金し、配当などは米国から投資家の日本国内の銀行口座に振り込まれる仕組みである。日本の投資家は、MRIの米国の銀行口座に投資資金を入金しているため、資産運用の実態が極めて分かりづらくなっている。
- 証券取引等監視委員会によるMRI社に対する検査結果によると、少なくとも2011年以降、投資家から預かった出資金の大部分を事業に用いることなく、他の顧客の支払に流用していた。また、資金の分別管理を行っていなかった。新規資金の調達を続けることで出資金を集めていた投資詐欺である。MRI社が、倒産を防ぐために新規資金を調達し続けたことが、詐欺被害拡大の理由である可能性が高い。
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